犯罪・刑事事件の解決事例
#遺産分割 . #財産目録・調査

生前に売却された不動産の売買代金の存在を遺産調査により突き止め、交渉により遺産分割協議を迅速に解決した事例

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小池 智康 弁護士が解決
所属事務所弁護士法人Bolero南越谷法律事務所
所在地埼玉県 越谷市

この事例の依頼主

60代 女性

相談前の状況

本件は依頼者の母親が被相続人であり、相続人は長男、二男、長女の3名でした。相続開始後、被相続人と同居していた長男から、二男及び長女に対し、相続手続を行うために必要ということで、金融機関の相続届に実印押印と印鑑証明書の交付を求められました。この際、二男及び長女は、遺産がどの程度あるのかということを確認しましたが、長男はあいまいな話をするだけで明確な回答はなく、通帳などの資料も見せてもらえませんでした。被相続人は、亡くなる3年前に自宅(建物及び借地権)を売却しており、自宅の立地をからすると1億円近くの売買代金を得ている可能性がありましたが、この売却代金の所在等についても、長男は明確な説明をせず、相続届への署名・押印を執拗に求めました。そこで、二男及び長女は、長男への対応について弊所に依頼されました。

解決への流れ

二男及び長女のご依頼を受け、弊所から以下の対応を提案しました。①遺産調査現在の預貯金調査に加え、不動産の売却時期まで遡って預貯金の取引明細を取得し、預貯金の流れを調査します。②遺産調査完了後、長男と交渉開始不動産の売却代金を長男が管理していた場合、調査終了前に交渉を開始すると、売却代金を隠匿される可能性があったことから、①の調査終了後に受任通知を発送して交渉を開始することとしました。③早期の遺産分割調停の申し立て本件は不動産の売却代金の調査さえ完了すれば、他の遺産関係は複雑ではなかったこと、特別受益の調査等の必要もない事案と判断されたことから、無理に交渉による解決にこだわるよりは、早期に遺産分割調停を申し立てて、調停において協議をすることが早期解決につながると判断し、このような進行を提案しました。以上の事件処理方針についてご了承をいただき、事案に着手しました。まず、①の遺産調査については、事前に依頼者に確認した金融機関と近隣で取引があると予想される金融機関に対して、預貯金調査を行いました。その結果、近所の信金に不動産の売買代金が入金していることが判明し、預金調査時点でも7000万円超が残存していたため、これは預金凍結により保全できました。他方、不動産売買代金のうち3000万円ほどが使途不明になっており、この点が新たな争点になりました。以上を踏まえ、弊所から長男に対して受任通知を発送し、遺産分割の申し入れ及び使途不明金についての説明を求めました(上記②)。長男側からは、弊所が設定した期限までに回答はありませんでしたが、回答を督促したところ、長男に代理人弁護士がつき、回答及び遺産分割の提案がありました。長男側からの提案は、A 使途不明金については、不動産売却後の引っ越し費用やその後の生活費に費消したことB 遺産分割については、長男が被相続人と同居して介護をしていたことからこの点を寄与分とし遺産の大半(80%以上)を取得するという内容でした。上記の提案は、使途不明金の説明としても必ずしも十分ではなく、寄与分の提案は二男及び長女の遺留分を侵害する内容であったことから、検討の余地はないものでした。そこで、弊所から、長男の代理人に裁判外の交渉を続ける意義が見いだせないことから、交渉を打ち切って遺産分割調停に移行する旨回答しました。そうしたところ、長男側から、法定相続分を基礎として、若干の寄与分的な考慮をした提案が示されました。弊所で二男及び長女と検討した結果、法的な寄与分が認められるかは別としても長男が被相続人と長年同居していたとの事実は評価したいこと、早期解決を図りたいとの意向が示されました。これを踏まえて、弊所において、交渉を継続し、遺産分割協議が成立しました。

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小池 智康 弁護士からのコメント

本件は、受任から半年弱で遺産分割の合意が成立した、早期解決事例です。通常、生前の預貯金の出金が問題になる事例では、解決まで長期間を要しますが、本件は対象が不動産の売却代金のみだったため、比較的調査の負担が軽く、早期解決につながりました。また、長男側からの最初の提案について、検討に値しないため遺産分割調停に移行する旨を回答したことも結果的に交渉による早期解決につながったと考えられます。遺産分割は、一般的に、家族内の問題のため裁判ではなく交渉による解決が望ましいと言われていますが、本件のような不合理な提案に対して、交渉を継続しても、合意成立のために不合理な譲歩を迫られるだけであり、あまり意味がありません。このような場合は、早期に交渉を切り上げて、遺産分割調停に移行することが結果的に早期解決につながります。本件は、交渉により解決しましたが、これも、長男側の最初の提案に対して明確に拒絶し、遺産分割調停に移行することを明示したことにより、長男側が法的根拠の乏しい提案は受け入れられないことを理解し、その後の対応が変わったことによるものと思われます。最後に、本件の遺産分割は、長男がすべての遺産を取得し、その代わりに一定の金銭を二男及び長女に支払うという内容の遺産分割(代償分割)となりました。この場合、代償金支払いのために、長男側で預貯金を解約し、その後、二男及び長女に代償金を支払うことになります。この際、長男本人が解約手続を行うと、解約した預貯金を長男が管理し、代償金の支払が不履行になるリスクがあります。そこで、本件では、預貯金の解約を長男の代理人が行い、長男の代理人が預貯金を管理し、代償金を支払うという処理にしました。遺産分割の成立目前になると、合意を成立させるために細部の詰めや遺産分割後の合意の履行確保が甘くなる場合がありますので、十分にご注意ください。